・本記事は、3/12に実施したスペースでお話しした内容をまとめたものです。
・一部テンペスト魔女のネタバレがありますので、ご注意のほどよろしくお願いいたします。
・以下のSSを教材に使用します。
『羅針盤』 『月夜の帰り道』
ご質問ありがとうございました!
そしてお待たせしてしまって本当に申し訳ありません…
教材①『地の文』
[地の文のテンポを良くするには?]『羅針盤』
あまりのことに、ティレルは思わず息を飲んだ。
恐怖に近い驚き。嫌な苦味が口の中に広がる。
文章の長さを工夫することが大事◎
『長い文章+短い文章+長い文章』
途中で短い文章を挟むことで、冗長な文章になることを防ぐことができます。
体言止めはインパクトが大きい分、多用しすぎると効果がなくなります。「ここぞ!」という時に使用すると良いでしょう。
[会話の途中、どんな地の文を入れると良い?]『羅針盤』
「前にも申し上げたはずです。俺は……王族は殺さないと」
「ああ、聞いたな」
窓際に飾られたガーベラを愛でながら、主は頷いた。
~~略~~
主君の過ちをとがめるのも臣下の役目、そう誰かが言っていた。ティレルも同意見だった。主が正しい道を歩めるよう、お支えする。それが正常な主従関係だろう。これがコンラッド以外なら、主の気分を害さぬよう配慮しながら、うまく丸め込むこともティレルなら容易にやってのける。……コンラッド以外ならば。
ガーベラの花を、コンラッドは握り潰した。白い花弁がはらはらと散っていく。
キャラの手癖に注目してみる!
足を組んだり、腕を組んだり。髪をかき上げたり、頬をかいたり。 話している間、ついつい手や足などが動くことはないでしょうか? 「このキャラはどんなポーズで、どんな動作をしながらこの台詞を話しているだろう?」 こうした描写であれば、会話の流れをせき止めることなく、読者の想像力をかき立てることができます。 このシーンでは白いガーベラをルーシェンに見立てることで、コンラッドの殺意を表現しています。 台詞以外でキャラクターの心情を描けるようになると、シーンに深みが増すのでオススメです! [良い台詞をより良い台詞に]『月夜の帰り道』 クライオスは朗々とした話し方を止め、隣の男にだけ聞こえるように語る。 「俺が間違ったことを言えば正してくれるし、悪ふざけに乗ったり、大抵のワガママも聞いてくれる。まるで年上の相手と話しているような気分になるよ。まぁ実際、歩んできた歳月は俺よりもずっと長いわけだが」
キャラの声色、口調も大切!
たとえばこのシーン。
人気のない道で、隣にいるのにわざわざ、隣の男だけに聞こえるように声をひそめて話す。
小さな声で話されると、否応なく聞き耳を立てる、意識を集中することになりますよね。
つまりこのキャラクターは、自分の声を巧みに利用し、人の意識を操ることに慣れている……というキャラクターの人物像を表現することができます。
「今このキャラはどのくらいの声の高さで話しているのか? スピードは? 表情は?」
良い台詞を思いついた時ほど、描写をふくらませてみるとよりその台詞が輝くかもしれません。
[よくない例]『羅針盤』
終わりの日が来たのだと、ルーシェンは悟った。
これまで、ただひたすら生き残ることだけを考えてきた。死の予感が拭えたことは一瞬もなかったが。……予感は確信に変わった。
この書き出しはちょっとテンポがイマイチだった……
……と、あとになって気付きました……。
同じくらいの長さの文章が並び、文末にも変化が見えない。音読してみると、リズムの悪さがよく分かります。
文章は『音』が非常に重要です。よどみなく流れるような文章は、音読しても気持ちがいいものです。
ついに来た。ルーシェンは息を震わせる。
生まれてきてからずっとまとわりついていた死の予感。現実に変わる瞬間がとうとう訪れたのだ。
……個人的には、こっちの方がしっくり来ます。
・短文と長文を使い分けよう
・挙動、口調、所作に注目してみよう
・文末に変化を持たせよう
・文章は音楽、最後のチェックで音読してみよう
教材②『会話』
[台詞にキャラ性を出すには?]『羅針盤』
ルーシェン 話題を提示
「今、補佐として私に同行してくれる者を探しています。
閉鎖された国であるヒストリカが変わっていくために力を貸していただきたい。……そこで貴女がたに声をかけました」
ゼン ゼンだから出てくる単語・語彙
「翼騎士に異端審問官に街の探偵。国の代表にしちゃあ、異色のパーティーだよな」
クライオス さりげないフォロー
「正攻法では許可は下りないだろう。だからどうしようか、という話をしていたんだ」
アナスタシア
「そうでしたね……大変失礼しました」
キャラクターならではの語彙、役割を整理する
台詞というものは、ついつい『何を言わせるのか?』というところに引っ張られてしまいますが、その通りにしてしまうと特定のキャラだけが喋ることになったり、キャラらしさを失ってしまう原因を作ってしまうこともあります。
『彼は、仕切るタイプから話題の提示は任せよう』
『彼はこの国の出身者だから、こういうワードを使わせてみよう』
というように、そのキャラの立場やバックボーンに焦点を当てることで、個性を出してみましょう。
[読者の想像力に頼ることも]『羅針盤』
アナスタシア ボケ
「申し訳ございませんでした。もう大丈夫ですので、どうぞお話を続けてください」
ティレル ツッコミ・ゼンも言いそう
「続けてくださいって、お前、議題は何か分かってんのか?」
アナスタシア ボケ
「分かってません」
ティレル ツッコミ
「お前なぁ」
ルーシェン すかさずフォロー
「僕が外遊することになった……というところまでは覚えていらっしゃいますか?」
これだけでは誰の台詞か分からないかもしれない。でもこの会話には、どうしても地の文を挟みたくない。
読み手さんの想像に頼るしか……! ということも正直あります。
そうなってもいいように(?)、事前にキャラクターをしっかり描いておくことが大事です。
「この台詞はあのキャラが話してるんじゃないかな?」
と読み手が想像できる下準備をしておきます。そうすることで、いざというときに読み手の方に委ねやすく……なる……と。
・役割、立場、バックボーンを整理して、台詞にキャラらしさを出す。
・下準備がとても大事!
・読み手を信じる
* * *
1つ目の質問者さんへ。
もしかすると質問者さんの中には「地の文が多い方が良い作品」という思いがあるのではないでしょうか。(違ったらごめんなさいm(_ _)m)
その気持ちも十分理解できるのですが、それは質問者さんが、地の文を書くのがおっくうになるくらい『キャラクターのやりとりを描くのが楽しいんじゃないか』と読んでいて思いました。それはすごく良いことです!
質問者さんが書いていて楽しいなら、読み手も読んでいて楽しいです。それは間違いないです。地の文は台詞を輝かせるためにあるくらいの気持ちで、良いところをどんどん伸ばしていくことをオススメしたいです。ただ、キャラの思いを台詞にだけ乗せると、表現が凝り固まってしまうので、そこだけご注意いただけるともっと良くなると思います。
2つ目の質問者さんへ。
陳腐にならないように……と気をつけることは素晴らしいです。私も気をつけないといけないことがたくさんあるので、よく分かります。そういう時、私は類語辞典に助けを求めます。オススメのサイトは以下にリンクを貼っておきますので、ご覧いただければと思います。
根本的な解決方法として、「○○しないように」と自分を戒めるのではなく、「こうなりたいからこうしよう!」に転換した方が、うまくいくことが私の場合は多いです。『自分はこのシーンをどんなふうに描きたいのか』という点をより深掘りすることで、目指したい文章に近づけるかもしれません。
参考サイト
執筆環境
■ テキストエディタ
Visual Studio Code
■ 日本語入力ソフト
ATOK
■ 時間管理ソフト
Focus To-Do
次回はプロットに関するご質問にお答えしたいと思っています。
他にも何かございましたらこちらまで!