Twitterにて創作にまつわる質問を募集させていただきました。
答えを提示するというよりは「誰かの悩みは自分の悩み。一緒に考えてみよ~~」というゆるゆるな企画です。
私自身まだまだ学びの途中ですし、ご紹介する方法が当てはまらないこともあると思います。「こういう考え方もあるのね」、「ここは違うと思うけどこの方法は使えるかも」など、ご自身で取捨選択しつつ読んでいただけると嬉しいです。
それでは本題に!
こんにちは。 いつも楽しくゲームのプレイ、及びツイッターを拝見させていただいております。
やりたい展開があるけれど、矛盾が生じてしまうとどうしたらいいかわからず投げるか見ないふりをしてしまいます。潮先生はどのようにしていますか?
また、地の文のレパートリーの増やし方も教えていただきたいです。 お時間あれば回答いただけますと幸いです。
作品・Twitterをご覧いただき、ありがとうございますm(_ _)m
地の文については、他の方にもご質問いただいているので、今日は矛盾について考えていきますね。
『やりたい展開があるけれど、矛盾が生じてしまう』
……めちゃくちゃ分かります。ないことがない。ちゃんとプロットを組み立てても出てきてしまう。そっと目をつぶるお気持ちに共感します。
矛盾に対し、私がいつもやっている対応は……
まず『矛盾は良いもの』と思うことから始めます。
いきなり精神論から
私は思い込み力で業界にしがみついてきた人間でして……
壁にぶつかるたびに「今やっていることはすごく価値のあることだ!」と暗示をかけてきました。己の神は己。
矛盾に対しても、
「これは矛盾を潰す苦痛の作業ではなく、クオリティを向上させる素晴らしい作業なんだ!」と、いつも自分を奮い立たせています。
創作とは心を働かせる作業。前向きな気持ちで取り組んだ方が、私は筆が進みやすいです。
では具体的に、矛盾をなくすメリットとは何か。
ぱっと思いつくのは『途中で引っかかることなくスラスラ読める』ということ。
矛盾がない物語。最高ですね。けれどメリットはこれだけではありません。
矛盾は物語を面白くする最高のキッカケです。
(思い込み力を鍛えた成果)
矛盾は新しい展開の種
シンデレラでたとえます。
作者は『継母たちからいじめを受ける灰まみれの女の子が、最後には継母たち以上に幸せになるというサクセスストーリー』を描くために筆を執ったと仮定します。
継母や義姉にいじめられる可哀想な美少女シンデレラ!
↓
シンデレラはドレスをGET!【矛盾発生①】
↓
舞踏会で王子様とfall in love!【矛盾発生②】
↓
王子様と結ばれて幸せに暮らしましたとさ!
【矛盾発生①】
ドレスによって、シンデレラの美しさが際立つ熱い展開!
だけどいじめられている彼女が、ドレスを持っているわけがない。
【矛盾発生②】
シンデレラが王子様に見初められる最高のシーン!
でもどうやって舞踏会まで行ったの?
①義姉の部屋からドレスを拝借した、②お城が近所にあった、とすれば尺を使わず、簡単に矛盾をなくすことができます。
ですが原作では、①魔法使いが魔法でドレスを出してくれて、②カボチャの馬車でお城まで運んでくれるという、新たなエピソードを追加することで、2つの矛盾を解消しました。
結果、シンデレラは単純なサクセスストーリーだけで終わらず、『魔法』、『カボチャの馬車』、『ガラスの靴』という素敵なアイテムが登場する夢いっぱいの物語になりました。
矛盾とは物語の魅力を膨らませる種なのです。
矛盾を楽しく解消する方法
矛盾を解消する方法は2つ。
『辻褄合わせ』と『エピソードの追加』です。『辻褄合わせ』は言葉通りの意味で、ざっくりいうと
「作中の天気は雨。なのに花火が上がる音がした。雨じゃなく晴れということで辻褄を合わせよう」
という修正が主となる手法です。
それに対し『エピソードの追加』は真逆。先に説明したシンデレラは、こちらの手法で矛盾を解消しました。
実例とともにご説明します。
(ケース1)このキャラクターはこんな真似しない問題
これはどちらかというと脇役キャラに起きがちかもしれません。
・いつも無口なキャラが、なぜかこのシーンだけよく喋っている。
→実はこれより以前に嫌なことがあって、フラストレーションが溜まっていた。その嫌なこととは……?
・みんなで悪事を働くシーン。正義感の強いキャラまで乗り気なのはおかしい。
→悪事ではないと思い込まされている。一体誰に……?
脇役が生きるとぐっと物語が厚くなります。
行動による矛盾は、なぜその人物がそのような強行に至ったのかを描くチャンス。
熱いドラマが生まる可能性を秘めた矛盾です。
(ケース2)ここまで賢いはずはないor馬鹿なわけがない問題
背後関係を膨らませる絶好の機会です。
「ある人物が入れ知恵した」、「ある出来事によって思考が鈍くなった」など……わくわくするネタを差し込むことができます。
(ケース3)このキャラクターはこんな台詞言わない問題
「この台詞を言わせたい!」という気持ちが先行すると起きやすいこの矛盾。要注意です。
カッコいい台詞が最初に思いつくことはよくあります。私の創作メモも台詞ばかりです。
けれど該当シーンに当てはめると「今それを言うの?」と状況から浮いてしまったり、「何でそんなことを言うの?」とキャラクターがぶれてしまったりと、よくない事が高頻度で発生します。
原因は、
・発言者の魂を憑依させずに思いついたものだから
・その台詞に至るまでの過程をおろそかにしているから
カッコいいだけ、耳障りがいいだけの台詞なら、無理にねじこまず、メモ帳に保存する選択肢も持っておくとよいと思います。
(いい台詞なら、きっといつかふさわしいシーンが出てくるはず)
『エピソードの追加』による矛盾修正をやる上で、一点気をつけなくてはいけないのは、物語の主軸をズラさないこと。
エピソードに尺を取りすぎると、「何を描きたかったのか分からない」という感想に繋がってしまいます。(この案配が難しい)
解消しなくてもいい矛盾もある
ここまで親の仇かというほどに矛盾を解消する方法を書いてきましたが、あえて目をつむった方が良い場合もあります。
再びシンデレラを例に挙げてみます。
「ガラスの靴でダンスなんて、絶対途中で割れる。王子様はなぜガラスの靴を手がかりにするの? 普通に顔で探した方が確実じゃ?」
仰る通り。ガラスの靴を普通の靴にして、宮廷画家に彼女の人相書きでも描かせれば、何の問題もありません。
けれど、この矛盾に目をつむったからこそ得られたものがあります。
『ガラスの靴という美しく印象的なアイテム』が、この物語を唯一無二のものにした。誰も履けないほど華奢な靴は、読者がシンデレラの容姿を想像するためのヒントにもなった。
そして、ガラスの靴が彼女の足にぴったりとはまる瞬間。矛盾を引き換えに生まれた名シーンです。
大げさな例を挙げましたが、たとえちょっとした矛盾だったとしても、辻褄を合わせるために説明を追加したり、必要性の薄いエピソードを加筆したりすることで、ストーリーのテンポが崩れることもあります。
矛盾との向き合い方は作家性によって変わる
これを言ってしまうと終わりかもしれませんが……書き手がどんな目指す物語によって矛盾の扱いは変わります。
「矛盾のない物語こそ最上」と思う人もいれば、「多少の粗があっても、魅力ある物語が良い」という人もいる。「テンポは気にせず、長くなってもいいから全ての事象を説明して欲しい」、「キャラクターに重きを置いてくれないと飽きるしダレる」……さまざまです。
全ての人が満足する物語を書きたいという姿勢。
読んでもらうからには、一人でも多くの人を楽しませたい。というか全員楽しませたい。「神さまでもあるまいし、そんなことは不可能!」と諦めてしまったら、その時点で成長は止まってしまうので100点を目指すのは一つの正しさです。(絶対ではないですよ)
100点の物語にしか価値がないとも思いません。
人間の欠点が愛情に繋がることがあるように、減点された部分に魅力を感じることもあります。物語は読者がいてはじめて完結するものですしね。
どちらにしても、最初の読者である自分が楽しくないともったいない。矛盾やミスを気にして筆を止めてしまうのは、とても残念です。
自分が何を一番大事にしたいのか。優先順位を考えてみると良いと思います。
もし迷ってしまうようなら、どんな物語に魅力を感じるのかを探ってみましょう。これまでの読書歴、プレイ歴が創作のヒントになるかもしれません。
(結局答えは自分の中にあるという〆)
・大変なことほど前向きな気持ちで取り組む
・矛盾は物語を膨らませる絶好のチャンス
・矛盾を解消する方法は、『辻褄合わせ』と『エピソードの追加』
・矛盾するシーンの前後や背後関係を見直す
・時にはバッサリ切り捨てる決断も必要(メモ大事)
・優先順位を決める
・好きな作品の中にヒントがあるかも